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円谷英二的日本特撮映画史



大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン 
★★★★★

1966年(昭41)4月17日公開/大映東京/101分/
総天然色/大映スコープ
 
製作 永田雅一 脚本 高橋二三  監督 田中重雄
撮影 高橋通夫 音楽 木下忠司  美術 柴田篤二
 特撮監督 湯浅憲明  撮影 藤井和文 美術 山口煕
井上章
合成撮影  金子友三  照明 石坂守 - -
 製作担当者 川村清  操演  恵利川秀雄  造形 エキス
プロダクション
出演-本郷功次郎・江波杏子・早川雄三・北原義郎・藤岡琢也・菅井一郎・夏木章・藤山浩二・星ひかる
ナレーター-若山弦蔵

前作「大怪獣ガメラ」から5ヶ月後の公開。
「大怪獣ガメラ」の特撮監督・築地米三郎が大映を去ったので、前作の本編監督である湯浅憲明が特撮部分を監督した。

円谷英二の東宝怪獣映画とは異なった、大映映画独特の、暗く重厚な画面が多い。
「モスラ対ゴジラ」でも同じようなギャングは登場したが、大映映画となるとかなり「大人」の匂いがする。
木下忠司の音楽も、伊福部昭とは異なり、低音を強調した重々しい、荘厳な音楽となっている。

またこの映画は、「色」に対するこだわりが強く感じられる。ガメラの赤い火炎放射。空を飛ぶときの青白いジェット噴射。ガメラの黄色い目。そしてバルゴンの紫の体液。発光する白い尾ひれと、そこから発する虹色の破壊光線。各種「色」のコンセプトがはっきりと描写されている。

そしてガメラとバルゴンの闘いは全て夜間に設定されている。これはミニチュア技術の粗さを隠すためでもあろうが、日中の晴天の下でのシーンが多い、「明るく楽しい東宝」怪獣映画に対するアンチテーゼではないだろうか。

前年の12月に公開された「怪獣大戦争」では、ゴジラはついに「シェー」をしてしまうほど俗物となってしまったが、この映画での、ガメラとバルゴンが初めて対峙する大阪城のシーン、野生の生き物の如く、お互いを牽制し合う姿がシネスコの画面いっぱいに生々しく繰り広げられる。

東宝の怪獣映画は、円谷自身がフイルム編集していたせいもあり、高速度撮影や微速度撮影を駆使して撮ったカットを細かく編集して、リズミカルなモンタージュのシーンが多いが、この作品はあまりカットを割らずに、長廻しで撮影して、怪獣たちの息遣いを伝えようとしている。

さらにラスト近く、バルゴンはダイヤと共に人間を飲み込む。怪獣映画史上、初めての人食いシーンが登場する。バルゴンの首元を噛んで、紫色の体液を噴出させながら、琵琶湖へと引きずり込むガメラ。野生怪獣同士の、血肉を争う、まさに大決闘である。
湯浅憲明監督は、明らかに円谷怪獣映画とは違う、独自の怪獣映画を作ろうとする気概が、画面から伝わってくる。

同時上映された、大映京都の「大魔神」も傑作だった。時代劇を長年作り続けてきた、大映京都撮影所だからこそ、作ることの出来た特撮時代劇だった。

円谷英二は、この二作を観てかなり刺激を受けただろうと思われる。
3ヶ月後に公開された「フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ」は、それまで画面に流れる「血」を拒否してきた円谷が、敢えて「血」を表現した初めての映画となった。ガイラは人間を食べて吐き出し、メーサー殺獣光線で体中を赤い血で染める。

東宝でも不可能だった特撮映画二本立てを実現させたこの二作は、歴史に残る二本立て興行となった。

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前年公開された『大怪獣ガメラ』が大ヒットとなったため、第2弾として急遽企画された作品だが、大映専務であった永田秀雅によると、大映本社は前作『大怪獣ガメラ』について、「東宝のゴジラの二番煎じで、よくこんなものをやれるな」と営業部でも危険性を感じていたという。
ところが『大怪獣ガメラ』は予告編が劇場で流れてから前売りが急激に売れ、大ヒット。本社側もこれを受け、社長の永田雅一が直々に製作者名として自らの名をクレジットさせ、破格の予算を投入して製作に乗り出す意気込みとなった。

「ゴールデンウィーク」興行作品として、大映京都撮影所との分担制作による『大魔神』との本作の「特撮二本立て」興行は、円谷英二1人が全特撮作品を担当していた東宝にも実現できないものだった。永田社長もこの二本立て興行に並々ならぬ注力を見せ、3月末には新聞各紙にこの興行の一面広告を載せ、「日本映画は必ず復興する」と題した一文を寄せて意気込みを示している。

脚本担当の高橋二三によると、「8作も続くとは思わなかったが、『大怪獣ガメラ』のあと、これは次も来るなという感触があった」そうで、実際に本作の製作が決定した時には「ほら見ろ、さあ何作でもいらっしゃい」と思ったという。
劇中、小野寺が一郎に問い詰められて口を滑らせ、開き直って殺人を重ねるシーンがあるが、高橋はこのくだりを喜劇のセンスで描いたという。高橋は本作について「メロドラマと怪獣特撮がひとつになった作品」と評している。

クレジットはされていないが、永田社長の実子で専務の秀雅がプロデューサーに就いている。永田は「子供を出すように」と現場に要望しているが、田中重雄監督側は劇中に一切子供の登場しない作劇を通し、昭和ガメラシリーズで唯一ストーリーに子供がからまない、一般向けの内容の映画に仕立てている。

本作は興行的に大ヒットとなったが、特撮に予算を使いすぎて赤字になった。また大ヒットにもかかわらず、特撮監督の湯浅憲明らは内容に不満が多かったという。その理由は作劇が「主軸観客層である子供向けでないこと」であり、劇場での子供たちの反応を基にしてのスタッフの反省会では、「バルゴンが出てくるまでが長すぎて子供の集中力が続かない」「大人向けのドラマは子供たちには退屈」などの意見が出された。こうして湯浅が全編監督となり、翌年制作された『大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス』(1967年)では、子供たちを飽きさせない演出が最重点に置かれ、子供が主役の湯浅の理想とする作劇が徹底されることとなった。


ガメラのヌイグルミは前作に続き、本作に合わせてエキスプロダクションが新規製作した。鋭い目つきが特徴。昭和シリーズのガメラは基本的に四足歩行するが、これは湯浅憲明の「動物的にリアルに見せたい」との意向によるもので、最初は必ずはわせ、戦いに移行してから初めて二足になるよう演出したという。

手足を引っ込めての回転ジェットの飛行シーンは、前作ではアニメーションで描かれたが、本作から「迫力が違う」との湯浅の意向で、火薬を仕込んだミニチュアを使うものとなった。棒の先に火種を付け、4つの噴射口に同時に点火したが、タイミングが合わなかったうえ、撮影中に消えてしまうことも多く、苦労が絶えなかった。このジェット噴射の火炎の色は、口から吐く火炎放射の赤色との区別から、青い色にされている。

1尺サイズと3尺サイズの回転ジェット用ミニチュアが作られたが、湯浅は迫力にこだわり、なるべく3尺ミニチュアを使ったという。
ミニチュアは3点でピアノ線とつながれ、放射状に組んだ3本の支柱で吊るされており、支柱の中心の回転軸でミニチュアを回転させる仕掛けだった。この回転ジェットの撮影では、操演用のピアノ線が切れてしまうことが多く、見学に来ていた子供たちに笑われたこともあったという。

冷凍怪獣 バルゴンのヌイグルミは高山良策によって造型され、エキスプロダクションが細部の仕上げを行った。
バルゴンのまぶたは横方向に開くが、これは当時の撮影所所長をモデルにしたものだった。湯浅によると、この所長は実際にそういうイメージの顔をしていたそうである。また、バルゴンの頭が大きいのは人間体型を可能な限り隠すためで、撮影では足元を写さないよう気をつけたという。湯浅は、「バルゴンは見栄えよりも動きを優先させて作った」とコメントしている。

高山良策の怪獣造形は「動きやすさ」を重視して作られ、非常に軽いぶん傷みやすかった。撮影でも痛みが激しく、連日補修が欠かせなかったという。ラストの琵琶湖に沈むシーンではぬいぐるみがなかなか沈まず、ハサミで腹を切り裂いて水を入れ、最後はほぼ頭だけの状態にしてようやく目的を達した。これには見学に来ていた子供たちも大笑いしたという。

ぬいぐるみと同サイズの、垂れ目気味かつ上半身だけで舌が伸びるギミック入りのギニョールも、高山によって作られた。
舌を伸ばす仕掛けは、3人がかりで行うものだった。長い舌を伸ばしての冷凍液の噴霧には消火器が使われたが、舌を長く伸ばすのは、噴霧を拡散させて遠方まで冷凍液を飛ばしているように見せるためだった。

3尺サイズのギニョール人形も、同サイズのガメラと併せて琵琶湖セットでの撮影に使用された。
卵から生まれる幼体のバルゴンはギニョール人形を使い、下から手を入れて動かしている。ギニョール制作はエキスプロ。孵化シーンで漂う煙にはたばこが、幼体バルゴンを覆うねばねばした粘液にはアメリカ製の特注素材がそれぞれ使われている。このバルゴンの孵化シーンは、湯浅が「本作で最も気に入っているシーン」だそうである。

経緯は不明だが、ガメラとバルゴンの鳴き声は、『ゲゲゲの鬼太郎』第2作の「妖怪牛鬼」の鳴き声や、
『マジンガーZ』の「機械獣」の声など、東映動画のテレビ作品に頻繁に流用されている。また、バルゴンの高音部分の鳴き声は、同年制作の円谷特技プロの特撮テレビドラマ『ウルトラマン』に登場した怪獣グビラのもの、低音部分の鳴き声はアレンジされて同プロのシリーズ作品『ウルトラセブン』に登場した恐竜戦車、『ウルトラマンタロウ』に登場したパンドラにそれぞれ流用された。

前作『大怪獣ガメラ』では、東京撮影所の中で「継子扱いだった」という湯浅憲明ら撮影スタッフは、『大怪獣ガメラ』の大ヒットで「大威張りだった」という。続く本作では、湯浅は特撮監督に、前作に引き続き築地米三郎を考えていたが、築地が撮入前にテレビ番組『コメットさん』(TBS)の準備のために国際放映に引き抜かれてしまった。
これには湯浅は「ショックだった」と振り返っている。大型予算が組まれたため、デビュー3年目の湯浅は「大作監督にはまだ早い」とする本社の意向で築地に代わって特撮専任となり、本編監督にはベテランの田中重雄が据えられた。

こういった経緯で、本作では湯浅は特撮班に回され、元々大映の撮影所では特撮班があまり重視されてこなかったこともあって、前作以上に撮影所からは軽い扱いを受けることが多く、現場では本編監督が重視されたという。
本編重視で特撮部分があまりにカットされ、湯浅が「特撮担当だって監督なんだ、こっちのカットを変えないでくれ」と撮影所所長の元へ直接抗議に向かったこともあったという。大映のスタッフは基本的に縁故採用であり、「これに起因する近親憎悪だった」と湯浅は語っている。

しかしベテラン中心の本編スタッフに対し、特撮現場が若いスタッフ中心となったため、湯浅ら特撮班は逆に結集して仕事に燃えることができたそうで、これに伴い、特撮パートもかなり長いものになっている。
前作から特殊美術を担当しているエキスプロでは、社長の八木正夫以下スタッフ総出で特撮セットに入り、ミニチュアの制作の他に、操演も担当している。

A級予算が組まれた作品だが、湯浅によると、東宝ほどの予算編成は望めないため、特撮は出来るだけ現場で処理したそうで、バルゴンが噴射する冷凍液には光学合成ではなく消火器を使った。
大映には現像所が無かったため、予算を圧迫する光学合成は東洋現像所に一任する形となるので、虹色光線も自分で現像所に行って焼きこんだという。東洋現像所も導入したばかりのオプチカル・プリンターの実験を兼ね、グロス受注で虹光線の合成を行ってくれた。
バルゴンが通り過ぎる旅館の中を逃げる人影は、16mmフィルムで逃げる人々を撮影し、建物内に映写したものである。

前作『大怪獣ガメラ』とのつながりを示すものとして、ガメラを封じた「Zプランロケット」のカプセルの宇宙シーンが新撮され冒頭に登場するが、前作のミニチュアとは大きさ、形状が全く異なっている。
バルゴンがポートタワーを舌で押し倒すシーンは、工作部のスタッフがポートタワーを頑丈に作り過ぎてなかなか壊れず、ミニチュアが倒れ切る前にフィルムが尽きてしまった。撮り直しはきかず、余韻のないものになってしまったと湯浅は惜しんでいる。

大型予算を受け、大阪城のミニチュアセットはフルスケールで作られたが、美術監督の井上章が縮尺を正確にしすぎて、セットに入りきらなくなってしまったという。バルゴンの冷凍液によって凍りつく大阪城の描写はコマ撮りの手法を使って徹夜で撮影されたが、現像が上がってみると、湯浅いわく「パラパラ漫画」のようになっていた。このため、1コマずつ現像で尺を伸ばし、オーバーラップで画を重ねて編集している。ガメラの表面の氷が徐々に溶けて流れるカットは、セットを斜めにして氷を溶かし、流水を表現した。

冒頭でガメラが破壊する黒部ダムの特撮セットは、石膏製のフルスケール模型が作られた。
この向こう側に12トン超の貯水量の木製水槽が置かれ、観音開きで一斉放水してダム決壊のシーンを10倍速の高速度で撮影した。万全の用意の末にいざ撮影が始められたところが、30人の大道具係が開いた水槽の扉のタイミングがずれてしまい、濁流が二段階で流れ出てしまった。10倍速撮影のため、1秒のずれは10秒に拡大されてしまい、かえって迫力のある決壊描写となった。このとき、ダムの下流では火災描写の効果を出すため赤い照明が当てられていたが、濁流で火が消えた後に照明を消すのをスタッフが忘れてしまった。結局撮り直すことはできず、このシーンは赤い照明のまま使われた。

小野寺が飲み込まれるシーンのために、実物大のバルゴンの頭が作られた。日本の怪獣映画としては初めての、人間が怪獣に食べられるさまを描写した作品である。 湯浅の「東宝のゴジラとは違う画を創ろう」との意向で、怪獣同士の戦いにも、切ったり突いたりといった絡みが採り入れられ、円谷英二の方針で流血を避けた東宝の怪獣映画と差別化され、本作以降、ガメラシリーズでは怪獣の流血描写が頻繁に見られるようになった。バルゴンの角やトゲもそういった意向でデザインされている。

カラー画面を考慮して、必要以上の残虐風味を避けるためガメラやバルゴンの血の色は緑や紫にされた。
「四つ足怪獣同士の戦い」という本作の構図も、従来の東宝作品に見られなかったものだった。
これもプロデューサーの斉藤米二郎や湯浅らの「ゴジラが二本足なら、こっちは四本足で」という前作から続くゴジラシリーズへの対抗意識の現れだった。

本作では人間側の主演として本郷功次郎が起用されているが、これには本郷は甚だ不本意だったという。
デビュー7年目で「やっと一人前の俳優になれた」と思っていた矢先に本作の話が本社から来て、「周りの俳優はみんな逃げてしまい、自分だけつかまった」、「自分が目指しているものとは違う」と大弱りだったという。そこで本郷は仮病を使って大阪のホテルに逃げ込みを決め、このためついに本編撮入が1カ月遅れることになった。

本郷は制作部の部課長の前で、看護婦に注射(中身は栄養剤)まで打ってもらって仮病を通そうとしたというが、「治るまで待つ」と言われ、結局引き受けることになった。「相手が(目の前にいない)怪獣じゃ、まったく(演技の)勉強をしてられない」ということで、「現場では台本は貰ったが読まなかった」という。しかし、本作が予想外にヒットし、後年になって「まさかこんなに時代に残るとは思ってもみなかった、今ではもう財産になってしまった。ガメラに出られたことを本当に感謝してますよ」と語っている。

ニューギニアのシーンはすべてスタジオ内で撮影された。カレン役の江波杏子が南国風衣装で踊る特写スチールが撮られているが、本編ではこのようなシーンは無い。江波のスチールはその後、ロビーカードの素材に使用され、『対ジグラ』では怪獣ジグラに食べられているものもあった。

「あわじ丸」船長役の星ひかる(星光)は、特撮監督の湯浅憲明の実父である。星はバルゴンの表情モデルになった東京撮影所所長とは同期の仲間だった。村の娘役の西尋子は、本作がデビュー作。後に東映京都撮影所に移籍して賀川雪絵(現:賀川ゆき絵)と芸名を変え、現在に至っている。関西を舞台とする作品であるが、登場人物はごく一部を除き関西弁を話さない。

1作目は大映特殊技術部のスタッフがガメラを演じているが、本作からは専門のスタントマンを起用している。
本作から『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』までは荒垣輝雄がガメラを演じた。湯浅監督は「ガメラのぬいぐるみの甲羅は鉄線で骨組みを作ってあるので入るだけで大変なんですが、荒垣さんは実に軽快に動いてくれました」とコメントしている。





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